母のこと/大町綾音
 
 母のことについて書きたいと思いつつ、ずっと書けていない。
 ──もう、母の死からも2年と3ケ月が経った。……「もう」とは書いたものの、「早い」と思えば良いのか「遅い」と思えば良いのか分からない。
 私の時間感覚は、すっかり破綻しているから。
 母の生のこと、母の死のことを書こうとして迷ううちに、銀色夏生の「野の果て」という詩が目についた。氏の小さな詩集「小さな手紙」のなかに収録されている、22行の短い詩である。
 その詩はこんなふうに始まる……

 「野の果てに
  点在する
  光をおびた
  白い花

  わたしのきのう
  あなたのあした
  誰かの涙
  誰か
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