スランプ/夏井椋也
わだかまりを引き摺ったまま
辿り着いた朝
とびっきり苦いコーヒーで
昨日を飲み下す
垣間見る液晶は
物価高とゴシップと
ヒトやモノが傷ついた話ばかり
息が詰まるような気がして
窓を開けると
わずかに湿り気を帯びた風が
クシャクシャに丸まった意識を
キッチンまで転がしていく
ふと
何の脈絡も無く
自分が「言葉使い」の
端くれであることを思い出す
書かない
書きたくない
書く意味がわからない
書けない それでも
書こうとしてしまう性が
なんとも煩わしい
なんとも煩わしいくせに
椅子の足元で
クシャクシャに丸まった意識を拾い上げて
テーブルの上で伸ばそうとしてしまう
自分と正対するために
自分を取り巻く
景色と正対するために
自分を取り巻く景色と正対して
自分を取り戻すために
今日という日の上に
垂直に立ってみようと
愚かにも思ってしまう
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