天気予報の詩(うた)/大町綾音
傘の柄を気にかけ、子どもの上履きのかわき具合を心配し、通学路の水たまりの数を予測する。天気は単なる空模様ではなく、人の感情と記憶を滑らせるレールのようなものだ。
高校生のころ、雨の日に告白されて、断ったことがある。傘のなか、湿った空気の重たさが嫌で、その重たさと一緒に彼の言葉まで押し返してしまった気がする。いまなら言える。あれは天気のせいだ。曇天は時に、心の呼吸を詰まらせる。
そんな風に、天気には責任を押しつけられる優しさがある。
「あの日は、雨だったから」「急に風が強くなって」──
私たちは天気のせいにして、素直になれなかったことをそっと隠す。
けれど、それもまた詩だ
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