鏡の中の睦言たち/ただのみきや
道標のように立っている樹の根元
いつかの果実の残り香があった
美しい錯乱の季節
千切られたページのざわめき
枯れ果てた古井戸から
ことばは這い上がることができなかった
月の裳裾に纏わりつく
水色の蛾に舐られて
ほどける骨 睫毛のささめき
わたしたちは先を急いでいた
歌い出しを間違いでもしたかのように違和をまき散らし
未来を覗くつもりで そのくせどこにもたどり着けず
すぐに追いつかれると もう後ずさりしたくても
時間は容赦なく背中を押した
一発の弾丸のように
狭く ただ前にしか行けない暗い道を
標的など見つけることはなかった
虚空のどこかにかかったままの
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