窓。/田中宏輔
た妹は
両の目を覆って泣きじゃくっていた。
整形美容外科医院の名前が印刷されている
茶封筒が滑り落ちた。
隣の車両からやってきた犬が女の靴をなめる。
犬が、わたしの膝元に擦り寄ってきた。
電車が停まった。
駅からそう遠くないところに家がある。
女と犬が、後ろからついてくる気配がする。
妹は、テレビをつけっぱなしで居眠りをしていた。
テーブルにうつ伏せて眠る妹のうなじは
蟹の甲羅のように硬かった。
テレビは、古い映画をやっている。
ついこの間、癌で死んだ俳優が
末期癌で苦しむ患者の役をしていた。
犬のうなじに触れる。
ときおり毛を軽く引
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