イヴの手が触れるアダムの胸の傷あと ──大岡信『地上楽園の午後』/田中宏輔
 


そのやうに人は生まれた
だがいつの日に
しんじつ束を携へ
喜びに帰りきたらん?

生まれ落ちた瞬間から
ぼくらは種を
運ぶ人であるよりも
運ばれていつか
どこかに転がり落ちるだけの
旅する種ではなかったか


 そうか、わたしたち自身が種であったのか。逆説的なこの詩句に、とてもつよく惹かれる。こういった逆説的な視点、あるいはapproachの仕方は、大岡氏の詩法の根幹をなすものであり、この長篇詩だけでなく、『地上楽園の午後』に収められた、すべての詩篇において一貫している。ユリイカ1976年12月号(「大岡信」特集)所収のinterview欄に、「ひとつのことを考え
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