いきれ/木屋 亞万
手の甲が干からびてゆく
風呂上がりのカウントダウン
湯気は甘くはかない
海で生きていた頃は
まばたきさえ要らなかった
青い背は空を真似て
夕焼けに照らされる蜜柑
旬がいつだったかなんて
もうどうでもよくなった
薄く積み重ねて秒ごとに分ごとに日ごとに
年輪や地層みたいで離れて見る分には綺麗かもな
腐った穴だらけの日々も覆い隠され所在不明さ
手書きの言葉をバラバラにして袋に詰める
登場人物も出来事もない一日を紙に封じて
ごわつくゴミ袋にもたれて眠る
朝にはまだ眠っていたいと思う
腹は減ってなかったのに食後には足りない
死にたいと思うのに後悔は手放せない
燃やしてしまえばいい血も息も燃料にして
最後に全力で走ったのはいつだ
出せる限りの声で歌ったのは
本当に言いたいことを言えたのは
自分を縛る縄を切る
わけにもいかず
ならせめてちょっと緩めて羽を伸ばそう
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