ウォーキング/栗栖真理亜
っつけ合っていちゃついている
若いカップルのけたたましい嬌声が
背筋を凍らせるほど悍ましい怪物の声に聞こえたりする
こういう時なぜかほっとするのは
ランニング姿で元気に通り過ぎる初老の女性だったり
俯き加減で冷たい椅子に腰掛け携帯を触る男性だったりする
人なのか物なのかそれとも物怪なのか判別しにくい暗がりで
ただ人が少しでもそこにいることの安心感
私は歩くペースを早め
できるだけ暗くなり切る前に家に着きたい一心で歩く
我が家へと続く橋へと辿り着いた時の達成感
しかし家路に着いた途端
腰に巻いたカーディガンを落としてしまったことに気づき
また来た道を戻り探す羽目となる
地面に落ちてないか俯きながら探し回った結果
紺のカーディガンは自宅近くの橋を降りてすぐの土手のところに
暗い地面に溶け込ますかのように本体をべったりつけて待っていた
私は家に帰ってすぐさまカーディガンを洗濯カゴに放り込み
温かい湯船へと飛び込んで気持ちよく汗を流した
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