かさなる坂には逆らえない/菊西 夕座
頭をあげて礼をいうから
ひとに礼をするなら頭を下げろ
と坂をふんであがっていけば
坂の最後尾で坂が尾行していた
まるで魚がべつの魚の
尾びれをくわえるように
そしてひとつの尾びれから
べつの背びれにかけて
またひとつの坂が生まれるように
――そこで詩と暮らしは出会い
そのさかいめで眉をひそめる妻から
なにをしているのかと問われれば
カサカサと逃げだすトカゲそっくり
作家まがいの詩作モードをひたかくし
振り返ってなにもしてないとこたえ
あやしむ妻の視線に尾行されながら
暮らしの足しにもならない詩を追って
道につまずき擦過傷をかさねては
それでもこの坂道こそが生きる証と
心電図の波線よろしく大ブレしていく
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