雪はふらぬ/森 真察人
 
雪はふらぬ
ふしくれだった両の手で
光りを掠(かす)めるあたしには
手袋を渡す左手や
右手に残った火傷痕
そういうところに 雪はふる

雪はふらぬ
ペダンティックに錆びついた
あたしのちいさな身体(からだ)には
凄まじい夜間灯の下 道を拡幅(かくふく)するひとの
ぷつりと切れる筋繊維
そういうところに 雪はふる

雪は
その永久(とこしえ)の構造と
不変の輪郭とでもって
羊の腐った古傷を
羊のために癒やしゆく

雪はふらぬ
子山羊のように罪深く
光りを貪るあたしには
朽ちた誰かの制帽を その持ち主のためにのみ
金網に掛けるひとの光り
そういうところに 雪はふる

戻る   Point(2)