王國の秤。/田中宏輔
最後の一枚は、いつも大晦日になってしまう。
いらない平和がやってきて
どぼどぼ涙がこぼれる。
実物大の偽善である。
前に付き合ってたシンジくんが
何か詩を読ませてって言うから
『月下の一群』を渡して、いっしょに読んだ。
ギー・シャルル・クロスの「さびしさ」を読んで
これがいちばん好き
ぼくも、こんな気持ちで人と付き合ってきたの
って言うと
シンジくんが、ぼくに言った。
自分を他人としてしか生きられないんだねって。
うまいこと言うのねって思わず口にしたけど
ほんとのところ、
意味はよくわかんなかった。
扇風機の真ん中のところに鉛筆の先をあてると
たちまち黒くなる。
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