頭を叩くと、泣き出した。/田中宏輔
 
、ママンは死ななかった。
慈善事業の募金をしに出かけて行った。
むかし、ママンがつくってくれたドーナッツは
大きさの違うコップでつくられていた。
ちゃんとした型抜きがなかったから。
実力テストで一番だった友だちが
大学には行かないよ、って言ってた。
ぼくにつながるすべての人が、ぼくを辱める。
ぼくが、ぼくの道で、道草をしたっていいじゃないか。
ぼくは、歌が好きなんだ。
たくさんの仮面を持っている。
素顔の数と同じ数だけ持っている。
似ているところがいっしょ。
思いつめたふりをして
パパは、聖書に目を落としてた。
雷のひとつでも、落としてやろうかしら。
マッターホルン
[次のページ]
戻る   Point(13)