樹の影に/リリー
 
 軒端に訪れた冬が
 なつかしくて
 昔の男に逢ってみる

 樹の影の床几に
 ひそやかに日が暮れかけて
 眉の濃い青年だった
 あなたが盃をかたむけている

 湯豆腐のなべから上る
 湯気のむこうに
 確かにあなたはいるのだろうか
 幾度も目を見開いてみた

 その人も 私も 
 まわりの木々も
 それらを映す池の水までも、
 湯豆腐の舌にくずれる一瞬の様な
 はかなさがあった

  散りかけの葉に
  無情な風のざわめきは寄せて引き
  日暮れに沈んで行くのを見詰める私に
  あなたが盃をさした

 背を見せて去りゆく人を
 見送った車窓に
 急に溢れてくる涙

 あの青春の終わり方は、
 実は間違っていたのではないだろうか

 
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