THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
私らは別れるであらう 知ることもなしに
知られることもなく あの出会つた
雲のやうに 私らは忘れるであらう
(立原道造『またある夜』)
わたしの目は、雲を見ている。いや、見てはいない。わたしの目が見ているのは、動いている雲の様子であって、瞬間、瞬間の雲の形ではない。また、雲の背景にある空を除いた雲の様子でもない。空を背景にした動いている雲の様子である。音楽においても事情は同じである。わたしの耳は、一つ一つの音を別々に聞いているのではない。音が構成していくもの、いわゆるメロディーやリズムといったものを聞いているのである。そのメロディーやリズムにおいて現われる音を聞
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