月の鳥/塔野夏子
 
何もかもがあるべきところにない夜
君は月の鳥になって訪れる
冷たく冴えた光を浴びて
その羽の光沢はほのかな虹色

君はうたう
はるかな過去からのように
はるかな未来からのように
その調べは
月光に絡む優美な蔓草

その声に包まれる時にだけ
しばし見えるかすかな夢がある

何もかもがあるべきところをなくしている夜
君は月の鳥になって舞いあがる
冷たく冴えた光を浴びた
その翼の裏に深い闇を宿して


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