THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
 
したら? きっと、その瞳には、世界のありとあらゆる光景が絶え間なく映し出されているのであろう。きっと、その耳のなかでは、世界のありとあらゆる音が途切れることなく響き渡っているのであろう。あらゆるすべての光景であるところの詩人の瞳に、あらゆるすべての音であるところの詩人の耳に。ただ一枚の肖像画であるのにもかかわらず、実在するすべての肖像画であるところの、ただ一枚の肖像画! 世界が詩人を笑わせた。世界が詩人とともに笑った。世界が詩人を泣かせた。世界が詩人とともに泣いた。世界が詩人を楽しませた。世界が詩人とともに楽しんだ。世界が詩人を嘆かせた。世界が詩人とともに嘆いた。
 そうして、世界は、ただ一枚の絵だけ残して滅んだのかもしれない。


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