THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
 
の水が、川辺の風景の上に映っている。もしかすると、流れる川の水の上の風景の方が実在で、川辺の風景の方が幻かもしれなかった。
 月の夜だった。満月のきらめきが、川面の流れる水の上で揺らめいている。よく見ると、水鳥が一羽、目の前の川の真ん中辺りの、堆積した土砂とそこに生えた水草のそばで、川面に映った月の光や星の光をくちばしの先でつついていた。その水鳥のそばの水草の間から、もう一羽、水鳥がくちばしをつつきながら姿を現わした。二羽の水鳥は、寄り添いながら川面に映った光をつついていた。しかし、水鳥たちは知っている。ぼくたちと同じだ。いくら孤独が孤独と身をすり寄せ合っても、孤独でなくなるわけではないというこ
[次のページ]
戻る   Point(15)