数式の庭。─前篇─/田中宏輔
 
なものだ。
ほとんど無に近い存在かもしれない。
まったく無力な無ではないつもりではあるが。

 *

コーヒーカップをテーブルの上に置いて
足もとの数式の花に目をやった。
コーヒーの香りがコーヒーをこしらえたように
数式の花がこの庭をこしらえ
わたしをこしらえたのだとしたら
あの言葉は逆に捉えなければならないだろう。
「宇宙は数でできている。」
とピタゴラスは言った。
宇宙は数でできているのではなく
数が宇宙をこしらえたのだと。

 *

いちまいの庭をひろげ
ひとかたまりの数字と記号をこぼし
数式占いをする

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