メモ(主に映画についてのこと)/由比良 倖
 
を目的としたものでも、監督の思想や世界観を比喩的に映像として表現したものでもない。もちろん、ただ単に爽快で、気持ち良くて、感動出来て涙を流せるだけの映画はあってもいいし、そういう映画は一生掛かっても見切れないほど、既にたくさんある。
 でも、タルコフスキーにとっての映画は、そういう視覚的で感情的な快感を催させるだけのものではないし、要するには人生で一番大切な、世界全体が今この瞬間自分と共に揺れ動いているのを目撃するような、後になれば「あれは何だったんだ? 気の迷いかな」と言ってうまく思い出せなくなるような、ふつう恋愛の最中にしか感じられないような、完全無欠で、あれもこれもどうでもよく、今生きてい
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