白い折り紙/由木名緒美
白い折り紙
茶色や灰色を裏側にして
折って畳んで持ちあげたら
イノシシの肩甲骨に
トンビの翼に
エゾジカの硬い角になって
歩く
駆ける
羽ばたく
私の手の平に包まれて
命のぬくもりが
目覚めたら
紙の身体で
山や海や樹海へと
逃げていくのよ
小さな紙が駆けていったって
都会のアスファルトはあまり気にしないから
追うものもなく
自然へと還れるだろう
剛毛も羽毛も
凛々しい象牙もないけれど
私たちは生けるもの
紙と色のたぎる命
木のツルによじ登り
山頂の空を遊覧し
木いちごを食べる
命をあますところなく
縮めて広げて
ぎゅっと感じる魂の脈
見あげると
ぽつりぽつりと
雨
皮膚を透かして
幻のような紙が
水の記憶に吸い込まれ
跡形もなく
溶けていく命
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