下野/田代深子
めぐりきた
この日はなぜやら 決まって晴れる 蒼い
冥い中天に垂れなびく布帯 黄 紫 緑
八方の声明 太鼓と鉦 衆生の足は土をたたく
たたく
肉焼くにおい 黒ずみはじめた果実の甘露
巡礼たちの饐えた衣服 香木香油の焚きこもる
におい
においを 俺はひとたび逃れ路地にすべり入る
三日前の雨でぬかるみ汚濁に滑る隘路
猫たちは忌み二階からビニール幕を辿って
まろび降りてくる塵桶を蹴倒して跳びここから
消えゆく
俺もまたしばし この日をわざわざにえらんで
いまだ
逡巡と声明薫香に身をまかせ足音のうすら伝う
軒先の丸椅子に腰かけ 濁酒を一献
さらに一献 さらに
さ
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