被爆国/藤原絵理子
 

一握りのエリート軍官僚が
机の上だけで妄想する演習で
動員された中学生は
上空の核反応で黒焦げになる


町は核実験場になって
たくさんの科学者たちは
眼の色を変えてデータを取る
またとないチャンスとばかり


動員で腹が減るだろうと
なけなしの米と雑穀を炊いた飯で
作ってくれた弁当は
箱のアルミさえ融けて
それでも中の飯は黒く残って
水の蒸発潜熱の大きさと
母の愛情の深さに驚くばかりだ


学校の先生が言っていたほど
鬼畜でもなんでもなかった
アメリカの兵隊とねんごろになる
生きていくために
シケモクを拾う子供たちは
チョコをくれるから
大好きな正義の味方だと思う


満州の話をしてくれた大叔父や
甲子園がイモ畑になった話をしてくれた祖父は
もうみんなあちらの世界へ行ってしまった
記憶は薄れて映画の一場面になっていく


小さな太陽を支配した者は
笠に着てまわりを恫喝する
アルミの融けた弁当箱の
愛や悲しみに気づくこともなく


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