白紙への長い旅/ただのみきや
残らず文字が飛び去った詩集を開いて
男は夢を見ている
白紙の上に万象を結び付けていたものがなんであったのか
ことばという記号はうさん臭かったけれど今はむしろ生臭くさえ感じている
実体験も夢も見聞きしたことも妄想もその被膜をなくして侵食し合い
記憶は流転する立体曼荼羅として三次元から解放されていたが
神的視座を持たないミラーボールは両の瞼を縫われた月
自分を殺すほどの妄想力で八百万の視線のムチを浴びての回転舞踏は
慣性にすぎなかったし所在不明な真ん中の漏斗から自己らしきものが流出して
徐々に空ろは増すばかりだがおそらくは不在の対称としての
半身の柔らかな器の朝に銀を含んだ灰の
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