五感/夏井椋也
 

耳の不自由な彼は
音が見えた
と 言った

わたしには聞こえただけだった

目の不自由な彼女は
色が薫った
と 言った

わたしには見えただけだった

後ろめたくなかった
ことなんてない

おまえはどんな嘘をついてきた

面白いなんて
慰めを言うなよ

持てる者の嫌な臭いがするだけ

なけなしの語彙を
引っ掻き回しながら
五感と渡り合う

なんて みっともない

言葉

五感

邪魔なのはどっちだ

それでも書かずにいられない





戻る   Point(10)