愛をこめて花束をまっすぐに/秋葉竹
が
倒れて転がっていたのを
探して船内を歩き回って
みつけたのは深海の底でだったか
あの瞳をかたどった穴から
海水とはまたまるで別の
なにか言葉のような泡粒が
ポロポロとこぼれ出す音を
聴くとは無しに聴いた気がする
あれが迷路の果ての母への想いだったのかは
知らないしいくら考えてもわからない
その二度とみることのない深海の過去は
おそらく誰も知らないし
だれにもわからないまま時だけが
ゆったりと止まりつづけ
そうしてそれは
いつかわたしが花束が欲しくなった時に
世界を飲み込む激しい渦となって
この身も心も巻き込んでしまうのだろう
その後悔はしたく無いから
だからわたしはそれに気づいたいま
できるだけちゃんとしっかりと
聴こえる声でたったひとりだけに告げるんだ
「おかぁさん、本當に有難う」
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