四千七百四十五日/ただのみきや
ベーコンエッグとサラダの乗った皿がありサラダには
刻んだブラックオリーブとローストオニオンがかかっていた
皿は日差しを鋭く反射し網膜を切りつけて杏色の傷に
「太陽のせい」 あの言い訳は意図したものでないから美しい
今だ引力に逆らい続ける一個のヤシの実
過去でも未来でもなく横滑りする時間 そして
深く見通せない海の底から戻って来る水死したきみの
ぬれた黒髪の匂いを嗅ぎながら白化した珊瑚のような指で
わたしの心臓の裏側に隠された青い真珠が抜かれる感触を
眼を瞑り味わっている
ああ触れられると必ず嘔吐(えづ)くところを無防備にさらし
四千七百四十五日 きみの腰骨の濡れて張り付いたままの
頁を剥がすことにのみ費やして来たのだ
水は今も含み笑いのように光を孕んでいのちを模倣し
網膜は発火してムンクの描く女のような焦げ痕を広げ──
世界はこののち失明するだろう
(2024年6月22日)
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