降ろされた場所で/番田
こうして何かを書き綴ることで、空間の存在を理解する、机や、コップのある意識に通り過ぎる電車を感じる、この場所で生きているのだ、記憶にある地方の湖で見た花火みたいに。当時は商社勤務で色々な場所に連れ出されていたけれど、その、展示会場で会ったメーカーの人のことを時々思い出す、溶接機などの説明を聞いた、角を曲がった向こうはそこに住む人が歩く街。あとは家と田んぼだった。風もなく静止した木。先輩に連れられて行ったペットショップだとか。大学を出たばかりだった僕はいわゆる一般的な人たちがどんなものを好むのかということをそこで学んだっけ、僕は、何も、そこで見たり聞いたりしたものに関心を抱かなかったわけで。車が停めてある駐車場に歩きながら、地下道で先輩の背中を見て、仲間たちは今何をしているのだろうと思ったりした。突然連れてこられた地方都市はどこだったのかすらも記憶は曖昧だったけれど、じっと疲れた体をシティホテルのベッドに横たえていたのは正解だった。
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