Cut The Cake。/田中宏輔
 
かい体?の老人だったが、なぜ老人がぼくの太腿に手を置いたのか、その理由は説明するまでもないだろう。(……)ぼくは弟に「席を替ろうか?」と言ってみた。(……)ぼくたちは立ち上がって、スクリーンに近い前のほうに席を替った。そのあたりにもやはりおとなしい巨人たちが坐っていた。振り返って老人の顔を見ることなど恐ろしくてできなかったが、とにかくその老人がとてつもなく巨大な体?をしていたことだけはいまだに忘れることができない。あの男はおそらく、年が若くて繊細なホモの男や中年のおとなしい男を探し求めてあの映画館に通っていたのだろう。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』いつわりの恋、木村榮一訳
[次のページ]
戻る   Point(6)