故郷へ/藤原絵理子
 

ふるさとの山に咲く藤は
忘れていた苦い思い出のうたかた
恋した人の横顔のおぼろな輪郭が
霞む春の海の島影に重なる
時をさかのぼる旅に
のめりこんで逃避する快感は
ギャンブル依存症の彼と同じ


認知症の老人の家が売りに出ている
不動産屋は古くからの知り合いなので
その辺の事情を知っていて
なるだけ高い値段で売りに出している
相場はそんなに甘くない
彼の娘はわかっている


暗黒は古い友達
古い歌で命令する
アメリカを探しに行け
古き良き希望に満ちた国は
後朝の鳥の声とは相容れない
鉄火巻とサンドイッチは動機が同じ


S&Gの歌が好きだと言って
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