水 鏡/塔野夏子
 
水の上に花が咲いている
花の姿が水にゆらめいている

それをながめながら
   幾重にも愛を囁きながら
   幾重にも別れにふるえているような
   このひとときに

   いちばん告げたい
   あるいは告げてほしい
   言葉があるとすれば

   それはいちばん
   告げてはならない言葉であると
   知っている

花はやがて水面に散り敷くだろう

   その言葉を
   逃げてきた天使のように匿って
   幾重にも愛を囁きながら
   幾重にも別れにふるえているような
   このひととき

水底から
   いつまでも透きとおることのない記憶が
   私を見つめている



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