詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その2。/たま
 
ほな、帰ろか。」
 作業の始まりと終わりの指示は気のはしかい中川さんだった。
 しつこい蚊や砂や、便器にこびりついたウンチと格闘し、曲のわるい水道ホースをなだめすかせてちいさな輪っぱにして、女子トイレのロッカーにていねいに投げ込むと、いったん詰め所にもどるためにまた自転車を漕いだ。わたしたちの職場にエアコンはなくても、海から吹き寄せるほどよく乾いた汐風が、Tシャツやズボンに染みついたサンポールの臭いと汗を吸い取ってくれた。この汐風がなかったら、シルバーのわたしたちはここではたらくことができなかった。汐風は海辺ではたらくことの唯一の恩恵だったかもしれない。
 駐車場を行く中川さんの、向かい風を
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