詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その2。/たま
 
るから、長靴を履いているからといっても洗面台や便器にかけた水は、わたしのズボンやTシャツを遠慮なく濡らした。それでわたしは蛇口をもうすこし絞りたいけれど、蛇口を目一杯開放するのも中川さんの指示だったから、勝手にいじることはできなかった。
 トイレ掃除でいちばん困るのは、海水浴客のサンダルや素足が持ちこむビーチの砂だった。蛇口を目一杯開放するのはその砂を流すためだったが、女子トイレのいくつもならんだせまい個室の床に堆積した砂はおもうように流れてはくれない。堆積したなんて大げさかもしれないけれど、土日や、つよい風が吹いた翌日はトイレのなかもビーチみたいなものだった。

「はい、ありがとさん。ほな
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