Sat In Your Lap。II/田中宏輔
ゆる物の影がそこに現われて映るのである。鏡に色や形があれば、物影は映るまい。
虚空は、その中に存分に物を容(い)れることができる。われわれの心にさまざまの思いが気ままに表れて浮かぶのも、心という実体がないからであろうか。心に主人というものがあれば、胸のうちに、これほど多くの思いが入ってくるはずはあるまい。
(上、現代語訳=三木紀人)
最初のものは、『徒然草』の第百十七段からのもので、それにある「心は必ず事に触(ふ)れて来(きた)る。」という言葉は、詩人が引用していた、ゲーテの「人間の精神は万物に生命を与えるが、私の心にも一つの比喩が動き出し(……)」といった言葉
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