蛇/佐々宝砂
蛇が布団の上で死んでいる。いつから死んでいたのか知らない。腐ってはいないが干からび始めている。とても大きな蝿が一匹ぶんぶんと飛んでいる。開け放しの窓から風が激しくて臭いを感じることができない。反故紙がくるくる回っている。やるべきことがあった、蛇に名をつけるのだ。いつか、覚えていないけど、ずっとずっとまえに、この白い蛇は私に何か素敵なものを見せてくれたような記憶がある。でも記憶は曖昧に漂うばかりでその爪先にも触れない。蛇には触れる。乾いた鱗に触れるとさらさらと剥がれた。電話がなる。画面を見なくてもわかる。弟からだ。出るもんか。着信音のダイア・ストレイツ、なんでこんな曲呼び出し音にしたんだっけ。忘れた
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