五月のクジラ/夏井椋也
ふ と
見上げると
クジラは空を読んでいた
東には
逃げ遅れたはぐれ雲
クジラはふらんと尾鰭を揺らした
南からは
色と香りをまとった風
クジラはぬわっと口角を上げた
西の何処かで
微かな祭りのさざめき
クジラはむぬっと小さな目を凝らした
北の何処かから
なんとも美味そうな匂い
クジラはすぷっと潮を吹きそうになった
ワタシは
いろいろなモノやコトを読むくせに
風を読むことはない
もう 一度
見上げると
クジラはぽわんと空に浮かんだままで
もう
ヒトの五月は読み飽きたようだ
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