小麦の薫る男(サンドイッチマン)/本田憲嵩
 
ンを広める、という唯一無二の高尚な目的と精神と夢のために生きている、「小麦の薫る男」なのだと、僕はこの時ようやく肌で理解した。
「じゃあもう俺行くから」。そう言って彼はようやく公園をあとにする。今しがた上空に飛んで来たヘリコプターのプロペラが自分の頭の食パンに当たって千切れていないかどうかをとても気にかけながら――。
「焼 き た て」
もしへコんだらとりあえずこれ見とけって、彼から受け取った大きな茶封筒を開封して取りだした、縦型のちいさな暖簾には、ただただそう書かれていた。


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