海、夜気、無言/ヒロセマコト
 
あふれる想いは
言葉を見つけられないまま
ため息となって、夜空を漂い
暗い海へと吸い込まれていく

焦点の合わなくなった目には
沖合いの漁り火も星座も同じ
水平線の、さらにその向こう
あるはずのない島影を見ている

夜気が運ぶ、松の清浄な香り
海へと続く、松林の中の一本道
小さな子供の頃の記憶
あの坂を登りきれば、海が見える

古びた我が家のすき間風に
潮の香りが混じる
私の心だけがいま
あの砂浜に立って、潮風を浴びている
戻る   Point(11)