後年/形代 律
 
生身のひとが
都市に残っている噂とは逆に
鉄路を踏んでゆくと
霊とすれ違った

稀にたたずむ
かつてのひとの家宅は
いま わたしの背丈を遥かに超える蔓草が
幾世紀の愛憎を晴らすように
抱き壊した

霊は俯いて座っていた
目礼を送る
一瞬 目のような部位がかがやいたが
すぐに戻った

彼は草花を怖れつつ
時々は壊れた家を眺めて暮らす

それにしても
わたしの身体も随分と透けてきた

完全な霊になれば
目も耳も鼻も愛憎も消え失せるが
まだ
もう少し
生身のふりをする

歩く

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