闇に歩けば/リリー
 


 けやきは泉に濡れながら
 幸せだ 幸せだと
 細かく躯をゆさぶった
 
 闇に歩けば 
 誰も知らないお伽話へまぎれ込み
 そこは 京都清水寺の「慈心院」のご本尊
 大随求菩薩のお腹の中で 私の右手は
 うっすら光る梵字が刻まれた随求石を撫でていた

 地上へ出た瞬間、肉体は圧をのがれ軽くなって
 煩悩であかあかと染まり切った
 たったひとつのいのちの事実が眩しい大気に掬いあげられる
 闇に歩けば 
 やがて私も光の淵へ隕ちてゆきたいと思う
 
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