街の車窓から/番田
木は何本か、いつも行く道には生えている。名前すらもない、その、何年もそこに根を下ろした姿を空に晒して。自転車が通り過ぎる日も、同じ車が来た日にも、変わらず、木はそこに生え続けさせられていたのだろう。桜の芽吹く時期以外は、そこで、誰の気にもとめられることもなく。コンビニの向こうの脇道を曲がると、駅は突然、そこから人を見下ろしていた。ロータリーの無いこの街では、それがあることすらも予想できない、それは、もの静かな姿だった。そして階段を昇って、ホームに降り立つと、ここは、そんなに、でも、片田舎の駅というわけでもなく、まだ、カップにいれる方式のコーヒーの自動販売機では誰も買ったところを見たことはなかった。電車は何度も現れては眼の前を通過していった。小さな子どもも僕の横を通り過ぎていった。風もなく、時間が止まったかのように見えたひととき、誰もが寝静まっているかのような錯覚を覚える。そして電車はまた、やってきて、扉を開けたので、誰も座っていないシートを探してすばやくそこに腰掛けた。僕は、その中にいたのだ。そして少しだけ、そこから長い乗車になることを思っていた。
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