蛇行剣/藤原絵理子
若草山のてっぺんで
何と叫んでいるのか異国の言葉
ウイグル語みたいに聞こえる
鹿の目当てはせんべいだけなのに
首を上下に振ってくれるだけで
心が通じ合ったかのように喜ぶ
野生だけど馴れ馴れしいだけなのよ
ポケットにどんぐりを忍ばせていると
つんつん突いて
早く出せと脅迫する
街のカツアゲとほとんど同じ
トンカツを揚げるなんて
隠語はすごく面白い
きのこの傘の下が光っている
普段歴ヲタしかいない博物館に
入場を待つ人の列
誰かが割り込んだとか
いやらしい眼で見たとか
マスクしろよ とか
人が集まるとなにかの小競り合い
戦争の原点はどこにでもある
整理に当たる職員は
こんな騒動に慣れていないので
右往左往するばかりだけど
とても嬉しそうにおろおろしている
いつもは刷毛で地面を掃いているだけの
作業服の似合う彼らにとっては
地味だけど世紀の大発見だから
平べったい赤錆の板が
人を殺すための剣ではありません
わたしは祈りのために
半島から来た人が作ったんです
と 言う
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