巻貝のあぶく/由木名緒美
 
の愛が足りていないからだ

君が君を愛した時、誰も君を傷つけなくなるし、君は君自身を傷つけなくなるよ

自分を愛する者は、世界で一番の勇者なのだから」


巻貝は触手を揺らして「おやすみ」と言うと、砂の中へと潜っていった

私はゆっくりと泳ぎ出し、海藻のひとふさに身を絡めた

目を瞑ると、大きな海の中に自分しか存在しない様を思い浮かべてみた

誰もいない
追いかけるサメもなく
熱帯魚の模様に嫉妬することもない
エイの冗談で笑うことも
巻貝のあぶくに聴き入ることもない
一人ぼっちの世界

なにも存在しなかったら
私は私を愛するしかなくなるのな

私は私
一人きりの私
かけがえのない
最高の友

孤独な海に救われた夜に祝おう

豊穣の大海原で
世界を照らしていたのは

暗がりに隠れていて見えなかった
世界を映す私の瞳の奥の満月だった

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