離山房/藤原絵理子
 
あいつはあのまま
日本に居るべきだったんだ


自分が二人存在することに
人は耐えられない
NYの汚らしい街へ来て
地面を這いずり回っている俺
もう一人の俺は
おしゃれな避暑地で
高級なホテルに泊まって
気取ったミルクティーなんか飲んでいる
あれを消し去れば
お前がそうなれるんだ
王国の小人さんが言った


店のドライフラワーに
オレンジ色の実をつけた
アスパラガスがある
おばちゃんは薬師寺の話をする
遠い南都の空の下で
八一さんの歌碑を眺めている


あいつを撃ったとき
天空から白色矮星が降ってくる
地面に跳ねて黒色矮星に変わる
俺の宇宙の終焉
そして血のついたメガネが
レコードのジャケットになる
今となっては偽善者にしか見えないけどね


とうもろこし畑では捕手になる
ライ麦畑の捕捉者が
あいつを捕まえておいてくれたら
もっとたくさんのかわいい歌が
生まれていたかもしれない
想像してごらん

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