手遅れの手前/ホロウ・シカエルボク
を買ったのだが、少しの締め付けも感じないくらい絶妙なラインでそれは俺の指に巻かれていた、爪の周辺や関節のあたりにもまるで隙間は見つからなかった、もしかしたら親切心とか前職が染み付いたとかそういうことではなく、あの女は単純に他人の指に絆創膏を張るのが好きなだけなのかもしれない、いっそそう断言された方が深く頷けるような絆創膏の張り方だった、本当はすべて、そんなささやかなことなのだ、こましゃっくれた思想や大義名分など必要無い、絆創膏を最高に上手く張るとか、掃除を欠かさないとか、朝食をきちんと取るとか、そんな小さなことにこだわれるやつらがきっと世界を少しマシなところに留めている、夜明けが来るまで俺は歩き続けた、休みの日を寝るだけで潰してしまうかもしれなかったけれど、もうそんなことはどうでもよかった、明け方、小さな山の上で死んだ猫を見た、特別外傷のようなものは見当たらなかったけれど、車に跳ねられたのだろうことは想像がついた、猫は、自分がまだ生きていると信じているみたいにビー玉のような目を見開いていた。
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