鏡像 【改訂】/リリー
のビールは程よく泡立ち、引っ越し祝
いの乾杯の音頭を取る私に
「ありがとう」
とだけ言うと、一気に半分以上飲んでグラスを置いた。
施設へ入所した彼女の母親は、面会で訪れる娘を分からず孫の名を呼
んだらしい。
「施設では、自分から人へ話し掛ける事があんまり無いから。大人しく
してるやろ、それで……。表情も乏しくなるんよ」
数日前に、それを電話で聞いていたので彼女の現在の心境にわだかまり
有る事は分かっていた。それでも私は、この時南向きの六畳間を喜ぶ笑
顔へ乾杯をしたのだ。
友人のアパートからの帰り、瀬田唐橋で夜川の風は生ぬるかった。昼
間は、ボ
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