鏡像 【改訂】/リリー
、ボートを練習している人達の姿もあった。今、欄干からは何も見
えず。前方に対岸の夜景が拡がって、不意にそれらの燈は万華鏡を覗き
見るような回想へ、私を引きずり込んだ。
橋を、渡りきれば駅へ向かう真っすぐな道。街灯で浮きあがる人影は
聞き取れない言葉を耳に残す。そして踏切の警報音に私は、遮断機が下
りる前に渡った。
早春の、無人駅に一人っきり。向かいの線路で停車する、乗客のまば
らな二両電車が石山寺駅方面へ発車する。目を落とせば、そこには敷石
と古びたマクラギ、焦茶色に錆びついたレールが在るだけだ。
わたしの乗る電車は、まだ来ない。
【完】
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