violet/パンジーの切先(ハツ)
 
わたしは立ち上がる。とりあえず、バキバキ鳴る身体を湯船にひたして解凍しなければならないので浴室へ向かう。それから15分、お湯が貯まるまで、溜まっているメッセージを返し、返すことができないままのメッセージを読み返したりする。そして、給湯の終わりを告げるチャイムが聞こえて、わたしは棚から個装の入浴剤の一つを取り出した。半年ほど前、ギフトとして、ひとからもらったバスソルトの詰め合わせ、そのさいごのひとつ、violet の可憐な香り、とかかれた小袋を、わたしは手に取る。ほかに入浴剤もなく、しかたないのでこれを浴槽にまく。わたしはすみれという概念やイメージがきらい、もうぜんぶ一つの例外もなく嫌いだった。ただ
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