夏鳥/中沢人鳥
 
紙が細やかに振動している
撥水性はない
雫が落ちる
水滴は容易に染み込むが
少し弾き出される
風が吹く
枝垂れ柳よりも軽く碧い風
少しの水の重みと粘り気が
紙を飛ばさせない

まだ乾かない
乾けば飛ぶ
宙を舞うが
本音を言えば
空を飛びたい
鳶になりたいわけではない
また声は聞こえてくる

雫は落ち続ける
染み込む
台風が近い
15m/s程度
飛べないが
それでよかった
部分を失うよりずっといい
鷲とて台風には難儀するだろう
また視線を浴びる

雷雨過ぐ
快晴
乾く
概ね皺だらけ
もう飛べるだろう
風は吹かない
黄色い向日葵
桃色の朝顔
光を浴びた緑
蓮の花

吹き返しの風
高く舞う
空には届かない
これで終わっていい
次の雫はもう染み込まない
渇いたまま
本音を言えば
夏鳥になりたかった
燕がいい
軽ろやかな地鳴きを装って

よれた和紙の置き手紙を

そっと机に残す
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