季節/たもつ
足元の小さな一段下
花が海に濡れた
昨日、きみが
わたしのために育ててくれた花
名前をつけそびれて
それっきり咲いた
木々の陰影
夜明けに私鉄が発車する時の
孤独な音のひとつひとつ
特定郵便局の裏口あたりで
局員が手指を海で洗っている
昔からそれは
春の訪れだった
名前もないまま
海に揺れているあの花は
多分わたし自身
窓、開けておいたよ
そんな季節の話に夢中になって
きみの横顔ばかり
ずっと見ていた
その後、二つ三つ
言葉を足した
生きることと
その不確かな匂い
わたしたちはここにいる
と、知った時から
きみと
結婚したいと思っていた
(初出 R6.3.19 日本WEB詩人会)
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