鏡像 【改訂】/リリー
帳簿をつけている私に、ミズノちゃんが話しかけて来た。
「あだっさぁん、渡辺さんにね、新しい靴買ったんですよ」
「ほんま、良かったやん!」
どことなく靴を見て欲しそうな彼女の口ぶり。
「どんな靴?」
二人で渡辺さんの居室へ行き相部屋の人に挨拶して下駄箱を覗くと、さ
らっぴんの高齢者シューズで落ち着いた桃色のリハビリスニーカーが、客
人の様な顔で鎮座している。
「いいんちゃうの! 可愛くてステキ」
「そうですかぁ!」
「うん。今日から履いてもらったらいいやん!」
渡辺さんは、廊下の手摺りを伝い一日のほとんど徘徊している。たいてい
誰かの目に、その姿は
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